2026.07.28

誰もが自分らしく生きられる社会へ LGBTQ+トークイベントレポート

6月の「プライド月間」に合わせ、6月16日、東京ミッドタウン八重洲にて、LGBTQ+への理解を深めるトークイベントが開催されました。本イベントは、住友生命、ダイキン工業、大和証券グループ、三井化学、三井不動産の5社が共同で開催し、旭化成が協賛。日本文学研究者で早稲田大学特命教授のロバート キャンベルさんをゲストに迎え、LGBTQ+を切り口に、職場での心理的安全性やDE&Iなど、これからの組織づくりについて考える機会となりました。

■ゲスト紹介

ロバート キャンベルさん
アメリカ・ニューヨーク生まれ。日本文学研究者として、早稲田大学特命教授、早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)顧問、せんだいメディアテーク館長、国文学研究資料館館長を務める。テレビでMCやニュース・コメンテーターとして活躍するほか、さまざまなメディアを通して、DE&Iをめぐる現状や課題について発信している。

企業を越え、多様な人々が交わるプライド月間の「場」

当日、会場となった東京ミッドタウン八重洲カンファレンス5階のイベントスペースには123名が来場し、ほぼ満席でスタート。Zoom配信によるオンラインでも141名が参加し、関心の高さがうかがえました。参加者はアンケートツール「Slido」を通じて、講演中に質問や感想を投稿できる形式です。

司会による紹介の後、ロバート キャンベルさんが登壇すると、会場は大きな拍手に包まれました。講演の冒頭でまず触れられたのが、本イベントが5社の協働によって企画・運営されている点です。「各社が力を合わせ、手づくりしたイベントだと聞き、大変心強く感じました。勤務先の異なる人たちが、一緒になってイベントを行うというのは、実はなかなか難しいことです」とキャンベルさん。

東京ミッドタウン八重洲のように、さまざまな企業のワーカーが集う空間では、廊下ですれ違ったり、同じ店内で食事をする中で、偶然の接点が生まれます。そうした何気ない交流から、新たな関係や協働が始まる可能性を踏まえ、キャンベルさんは多様な立場の人たちが交わる「場」の意義に注目します。

この視点は、6月の「プライド月間」の話題にもつながっていきます。東京では代々木公園を中心に「東京レインボープライド」が開催され、多くの企業がブース出展やワークショップ開催などで参画。キャンベルさんは「LGBTQ+の当事者と非当事者が混ざり合い、近い距離で交流できる『場』を持つことが大きな目的」であることを強調します。「私も長年、プライド月間に関わってきましたが、非常に成熟し、裾野が広がったと感じています」と語りました。

権利をめぐる歩みと、プライドイベントが広げるつながり

さらに話題は、企業や社会におけるDE&Iのあり方へと広がります。キャンベルさんは、「ダイバーシティの価値を前提としたうえで、それを企業や組織の中でどう実現していくか」に着目します。アメリカの政権交代を皮切りに、世界でDE&I施策への揺り戻しが起きている現状への懸念を示しながら、「取り組みの実質をどう守り、組織の力につなげていくかが問われている」と話しました。

こうした難しい環境のなか、2026年、日本において注目のテーマとなるのが「同性婚の法制化」です。キャンベルさんは、これまで各地の地裁・高裁の裁判で複数の異なる判断が示されてきたこと、現在は最高裁の判断を待つ段階にあることを紹介します。「日本ではLGBT理解増進法が施行され、パートナーシップ制度を導入する地域も増えましたが、まだまだ不自由なもの。『自分らしく生きる権利』であり、同性婚という『結婚の平等』をどうするかが、今年の大きな焦点となっています」と、当事者の一人としての視点を示しました。

講演の後半では、キャンベルさん自身の原点にも話が及びました。子ども時代、アメリカ大統領選挙のボランティアに参加し、ニューヨークのさまざまな地域で、自分とは異なる環境に生きる人々の声に触れた経験。そして、1969年のニューヨークのゲイバーで起きた「ストーンウォール事件」をきっかけに、LGBTQ+の人々が権利を求めて声を上げてきた歴史です。

さらに、プライドイベントの前身となるパレードも1970年代に登場。権利獲得のための抗議活動をスタート地点にしながらも、長い歩みのなかで、当事者と非当事者が混ざり合い、共に時間を過ごす場へと変遷してきました。

一例として挙げられたのが、キャンベルさん自身が深く関わる「金沢レインボープライド」です。地域の和菓子店と連携した上生菓子づくりのワークショップや、茶室での「レインボー茶会」など、金沢の伝統文化とプライドイベントを結びつけた取り組みが行われています。多様な価値観を持つ人々が同じ場に集まり、一緒に手を動かし、時間を過ごす。キャンベルさんは、「DE&Iへの逆風が吹く今だからこそ、こうしたパブリックスペースを増やすことが、力強く社会を結びつけていくことになります」と考えを語りました。

Q&Aを通して語られた、職場でできることとは

第1部の講演終了後、第2部は「Slido」を活用したQ&Aセッションへ。会場のスクリーンには、参加者から寄せられた質問や感想の声が次々に映し出されます。LGBTQ+への理解を深めるために企業ができること・すべきことを中心に、同性婚などの制度改革がぶつかる壁、当事者への配慮など、参加者の関心は多岐にわたります。

最初に取り上げられたのは、「金沢のお話で、マイノリティの方とそうでない方が自然に関わる空間づくりをイメージできました。両者が心地よい空間を職場で作っていくには何が大切でしょうか」という質問です。キャンベルさんは、金沢に常設されている「金沢にじのま」の取り組みに触れながら、誰もが気軽に立ち寄り、話したり、情報にアクセスしたりできる拠点の大切さを紹介しました。

加えて、そうした場で重要な存在として挙げたのが「ALLY(アライ)」です。ALLYとはもともと同盟国や同盟者を指し、LGBTQ+の文脈では「味方」を意味するもの。「当事者ではないけれど、適切な知識を持ち、理解や共感を示す人のこと」とキャンベルさんは説明します。

「企業でも、ALLYのマークをPCに貼ったり、デスクに置いたりしているところがあります。普段『私はALLYです』と言う場面はあまりないと思うのですが、さりげなく、でも分かる人には分かるように示しておく。職場で当事者が困った状況にあるとき、味方がいることを静かに伝えるということです」と話します。誤った情報や偏見が組織の中で広まりそうなときも、LGBTQ+を正しく理解する味方が、そっと会話に入って必要な知識を補っていく――そんな日常の小さなスタンスの大切さが語られました。

続いて、「キャンベルさんのカミングアウトの背景について、可能な範囲で伺いたいです」という質問に対しては、「よくぞ聞いてくださいました」と応じ、2018年当時を振り返ります。きっかけは、性的指向や性自認をめぐるあるネガティブな記事を目にし、「自分が大学で教えているような若い人たちがこれを読んだら、どれほど傷つくだろうか」と考え、ブログで反論を書き始めたこと。その際、自分がどの立場から発言しているのかを明確にしないのは書き手として誠実ではないと感じたことが、公表の理由であると語りました。

公表後、若い世代をはじめ多くの当事者から反響があったと語るキャンベルさん。自分の立場をオープンに語る人の存在が、同じ思いを抱える人の大きな支えになること、また周囲がそれに耳を傾ける姿勢を持つことが、誰もが自分らしくいられる環境づくりにつながると話しました。

身近な一歩を踏み出し、誰もが力を発揮できる職場へ

最後に、キャンベルさんから参加者へメッセージが送られました。「性的指向や性自認に関する困難は必ずしも見えるものではなく、苦しくて能力を発揮できない人が、すぐ近くにいるかもしれない」と指摘。そのうえで、非当事者であればALLYとして少しずつ話題にできる日常をつくること、当事者であれば無理のない範囲で、まずは親しい人と自分のことを話せる関係をつくることが大切だと呼びかけました。

キャンベルさんの温かいエールに対し、会場からはあらためて大きな拍手が送られ、第1部・第2部にわたるプログラムは幕を閉じました。講演後には、参加者全員での集合写真の撮影を経て、軽食を交えた懇親会を開催。キャンベルさんも引き続き参加され、講演やQ&Aセッションでは聞ききれなかった話題について、参加者が直接言葉を交わす貴重な交流の場となりました。

今回のイベントでは、LGBTQ+への理解を深めるだけでなく、誰もが自分らしく働くために、職場や社会の中でどのような関係性を育んでいくべきかが語られました。制度や方針を整えることはもちろん、一人ひとりが身近な場所で他者を知り、対話を重ねていく。その積み重ねが、多様な人々が安心して力を発揮できる職場へとつながっていきます。『三井のオフィス』もまた、さまざまな情報発信やイベント開催などを通じて、多様な人々が安心して活躍できる環境づくりを支えていきます。

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